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 アメリゴ=ヴェスプッチという人物は、高校の世界史の「ヨーロッパ世界の拡大」や「大航海時代」などの項目で、教科書では必ず取り上げられるので、知名度はそこそこ高い。また、アメリカという地名がアメリゴに由来することでも有名である。では、「彼は何をした人か」と問われると、なんやようわからんのである。
 
 じつは16世紀はじめ、アメリゴの名で発行された『新世界』と『四度の航海』が、どちらもヨーロッパでベストセラーとなる。ヨーロッパから大西洋を渡って4度、中米から南米へ航海したときの探検記だったのである。ところが、この本の内容が事実なのかどうか、どうも怪しい。そのことでアメリゴは、死後、大陸の「発見者」の名誉をコロンブスから奪おうとしたと非難され、18世紀頃までは「名誉泥棒アメリゴ」とする評が根づいたのである。
 
18世紀後半になり、アメリゴの私的な4通の書簡が発見された。その内容は先の二著と重なるところが多い。このことからアメリゴを再評価する人も現れ、論争が起こり、いまなお決着がついていない。誰が、何の目的で『新世界』や『四度の航海』を書いたのか。そもそもアメリゴは本当に航海をしたのか、謎が多い。
 
本書では、アメリゴの生きた時代背景をわかりやすく解説している。そして16世紀に発行された著作を丁寧に分析して、アメリゴはどこまで探検し、そこをどのように解釈したのかを記している。また、地図も多く掲載され、ヨーロッパ人の世界認識の変化をわかりやすく解説している。さらに18世紀に発見されたアメリゴの4通の私信の翻訳文も掲載され、知名度のわりに知られていない、謎に満ちたアメリゴ=ヴェスプッチの実像に迫っている内容といえよう。
 

アメリゴ=ヴェスプッチ(人と思想シリーズ192)
篠原愛人・著 清水書院・刊